
なぜ「イントロ」を物差しにするのか
アイドルソングを語るとき、サビの分かりやすさやダンスのキレが基準になることが多い。ただ、「イントロだけで曲名が分かる」という現象は、また別の強さを示している。作り手が数秒の中に「この先に続く曲がどんな曲か」を凝縮させ、聴き手の記憶がそれに応えている、という関係だ。
本稿で並べたのは、チャート成績や売上枚数ではなく、この「一秒の強さ」を筆者が読み解いた見立てである。数値やランキングデータに基づくものではなく、あくまで一つの視点として読んでほしい。曲は時代順ではなく、「イントロの強さ」という軸での並びである。
イントロで分かる名曲、10曲
弾むようなイントロに導かれて始まる「年下の男の子」は、キャンディーズの人気を決定づけた一曲として広く知られている。華やかなオーケストレーションではなく、身近な弾みのあるリズムから曲が立ち上がる作りは、当時のアイドルソングの中でも親しみやすさが際立っていた。
古いレコードのイントロがふと耳に入ると、手が止まる。そんな条件反射を持つファンは、世代を超えて今も少なくないという。
Winkの代表曲「淋しい熱帯魚」のイントロは、通常なら一拍目から始まるはずの入りが、拍がずれてしまうという変則的な作りで知られている。編曲を手掛けたアレンジャーが、デモテープの偶然の欠けをそのまま面白がって採用したという逸話が伝わっている。無表情のダンス・デュオという当時のWinkのキャラクターに、これ以上ないほどよく似合う仕掛けだった。
正しいはずの位置からずれて始まるイントロには、聴くたびに妙な落ち着きの悪さと、それゆえの中毒性がある。
おニャン子クラブ「セーラー服を脱がさないで」は、1980年代半ばのアイドルブームを語るうえで欠かせない一曲だ。軽快な入りから一気にサビへなだれ込む構成は、当時のバラエティ番組発のグループ売り出し方と地続きの、スピード感のある作りになっている。
曲名そのものが流行語のように扱われ、世代を超えて引用され続けている。イントロを知らなくても曲名だけは知っている、というアイドルソングは案外少ない。
中森明菜「少女A」のイントロは、当時のアイドルソングとしては異色の、攻撃的なエレキギターで幕を開ける。煌びやかなオーケストラやシンセサイザーを背負う同時代のアイドルソングの中で、バンドサウンドを前面に出したこの一曲は、明菜の低く太いアルトの声質を引き立てる装置としても機能していた。
「アイドルらしさ」の定義を、イントロ一発でひっくり返してしまう曲があるとすれば、この曲はその代表格だろう。
松田聖子「青い珊瑚礁」のイントロは、低く沈んだピアノの音から静かに立ち上がる。やがて左右に流れるような伸びのある音の効果が重なり、波しぶきや潮風を思わせる質感を作り出す——夏のアイドルソングの原型のひとつとして、今なお語り継がれる仕掛けだ。
この一音を聴くだけで、行ったこともない渚の匂いを錯覚する人がいる……イントロが記憶を先取りする、という不思議な現象だ。
イントロの型で見る、名曲の顔つき
ここまでの5曲を振り返ると、イントロにはいくつかの「型」が浮かび上がってくる。曲順に整理すると次のようになる。
| 型 | 代表曲 | 印象 |
|---|---|---|
| リズム先行型 | 年下の男の子(キャンディーズ) | 一拍目から体が動き出す弾み |
| 変則の入り型 | 淋しい熱帯魚(Wink) | 拍がずれる違和感がクセになる |
| スピード直行型 | セーラー服を脱がさないで(おニャン子クラブ) | イントロから一気にサビへ |
| ギター先行型 | 少女A(中森明菜) | アイドル像を裏切る攻撃性 |
| 情景描写型 | 青い珊瑚礁(松田聖子) | 音だけで場所を作る |
もちろん、この型は厳密な分類ではない。ただ、こうして並べてみると、「イントロの強さ」が単なる好みではなく、作り手の狙いの違いから生まれていることが見えてくる。
ピンク・レディー「UFO」は、シンセサイザーを取り入れたイントロが特徴的な一曲だ。近未来を思わせる音の質感と、スパンコールの衣装・振り付けが一体となったステージ演出は、1970年代後半のアイドル歌謡が到達した完成形のひとつとして語られている。
SF的な世界観をイントロの数秒で提示してしまう大胆さは、当時としても際立っていたはずだ。
AKB48「恋するフォーチュンクッキー」は、ホーンセクションを効かせたディスコ調のイントロで幕を開ける曲だ。それまでのAKB48のシングルと比べてテンポを落とし、誰もが踊れる作りにしたことで、老若男女に浸透する一曲になった。
運動会や結婚式の余興でこの曲が流れるたび、世代の違うはずの人たちが同じ振りで手を動かしている光景を見たことがある人は多いだろう。
Perfume「ポリリズム」は、異なる拍子を重ねる「ポリリズム」という技法を大胆に取り入れたことで知られる一曲だ。加工されたボーカルと機械的なビートの組み合わせによるテクノポップのイントロは、鳴った瞬間に「Perfumeだ」と分かる強さを持ち、2000年代後半のアイドル像を塗り替えた。
アイドルソングのイントロに「実験」という言葉が似合うようになったのは、この曲があってこそだと思う。
乃木坂46「インフルエンサー」の冒頭を飾るのは、情熱的なフラメンコギターのフレーズだ。異国情緒あふれるアップテンポのイントロは、超高速のダンスパフォーマンスとセットで語られることが多く、CMタイアップなどを通じて幅広い層に浸透した。
ギター一本で異国の空気を運んでくるイントロには、聴くたびに姿勢を正したくなるような緊張感がある。
1位に置いたのは、モーニング娘。「LOVEマシーン」だ。明るく弾けるようなイントロが鳴った瞬間、フロアの空気が一変する——そう語られる曲として、この曲の右に出るものは多くない。それまでのモーニング娘。のイメージを一新した一曲であり、グループ最大のヒットとなったことでも知られている。
年末の歌番組やお祭りの余興で、今もこのイントロが流れるたびに手拍子が起きる。世代を超えて体が反応してしまう曲が、令和のいまも生き続けている——これには、素直に驚かされる!
一秒が、記憶を連れてくる
イントロだけで曲名が浮かぶ、という現象は、単に耳が覚えているという以上の何かを含んでいる。その数秒に、聴いていた場所、隣にいた人、当時の自分の年齢までもがセットになって蘇ることがある。
今回並べた10曲以外にも、「これぞ」という一秒を持つ曲は数え切れないほどある。あなたの中の一秒は、どの曲だろう……。
idolseekには、現場のエッセイから入門ガイドまで、次の一曲・次の現場に出会うための読みものを揃えている。気になった一曲があれば、ぜひイントロだけでも聴いてみてほしい。
この曲たちについて、もう少し知りたい人へ
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